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 そうして季節は巡り、塩見が最も苦手とする夏がやってきた。太陽がじりじりとアスファルトを焦がす中、塩見は出版社へと向かうべく駅方向に歩いている。 「……あっつ」  アパートから最寄りの駅までは徒歩五分。戸川の勤める四つ葉出版社までは電車で二駅、時間にすると約十分弱で、アパートから出版社まではトータル二十分の距離だ。  塩見が自ら出版社に出向くことはほとんどない。今日もクーラーの効いた涼しい部屋で一日を過ごそうと思っていたのだ。 「電車……大丈夫かな」  駅に着き改札の少し手前でぽつりと呟く。平日の午前だから混んでいることはないだろう。現に改札を抜ける人はまばらで、駅構内もがらんとしている。一瞬タクシーを使おうかなと塩見は回れ右をしそうになるが、これはこれで漫画のネタになるかも? と思いたつ。  塩見の新連載『シオちゃんと戸川さん』は、ウェブサイト『クローバーコミック』で掲載されるや否や大きな反響を呼んだ。塩見がパニック症候群であることや、まだ聞き馴染みのないHSPを題材にしたことにより、同じ障害を抱え生き辛いと感じていた人たちから、たくさんのコメントが寄せられたのだ。
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