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「なに、どうしたの?」
午後十時すぎ。仕事を終えた戸川は約束通り塩見の部屋に寄り、ビールを飲みすっかり寛いでいる。さっぱりとしたキュウリの浅漬けは、塩見のお手製だ。
「僕、聞いてないよ」
「なにが」
キュウリを手で摘まみながら首を傾げる戸川に、塩見が不貞腐れた顔をする。最近の塩見は少しづつ敬語が崩れはじめ、以前よりも子供っぽくなったと戸川は思う。今もむすっと頬をふくらませ、戸川を睨みつけている。
「うん? なに?」
「……担当、変わるかもしれなかったって」
「ん? あ、あぁ、その話? なに、こーすけに聞いたの?」
余計なこと言いやがってと思いながらも、戸川は拗ねた塩見の顔が見れたことに、にまにまと頬がゆるむのを抑えきれない。
「笑うとこじゃない。なんか、そういうの……ちゃんと言ってくれないと、やだ」
「言うもなにも、結局変わんなかったんだから良くない?」
「そ、そうだけどっ」
「まぁ、あれよ。シオちゃんは作家として優秀だし、わがままも言わないからさ、俺じゃなくて新人に任せてもいいんじゃないかって話があって」
「それは鹿島くんに聞いた」
「でも、シオちゃんは困るでしょ? その前にもさ、俺がそのー……結婚決まったくらいの時にもあったじゃん、そういう話。そん時だって、戸川さんじゃないと困りますって、かわいく言ってたじゃんか」
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