そこから始まる物語

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 どうしよう……。  拾ったはいいが返す手段がない。  拾った駅は無人駅だし、私の降りる駅も無人駅。  駅員さんがいる駅まで行くのに片道三時間ぐらいはかかる。  なら、運転手さんや車掌さんに渡せば……。  だが、名無しのノートを渡したところで持ち主に返してくれるだろうか?  そんなことを頭の中で考えていると最寄り駅に着き、私は電車から降りた。  降りたのは私一人で他の学生はまた別の駅で降りる、それはいつもどおり。  そのいつもどおりをこの一冊のノートが壊してくれた。 「あーもぅ……」  私は諦めと少しのイラつきを感じながらまたノートの最初のページを広げる。  絵が特別上手と言うわけでもないが登場人物が男か女、タイトルは無いが登場人物の会話の流れから内容がある程度理解でき、気づいたのは三ページぐらいまでめくった後に気づいた。 「村に住んでた男の子がある日、自分は勇者だと思い込んで魔王を倒しに行く……? って……勝手に読んじゃ駄目よね!」  誰もいない駅のホームにある椅子に座り、一人他人のノートの内容を読んでいたことにも気づいた私は冷静になり帰ることにした。    次の日、拾った駅に落とし主が現れてくれると信じた私は……ノートを広げることなく、鞄に入れ家に持ち帰った。    そして次の日。  私はいつも通り、最寄り駅で電車に乗り、学校に近い駅で降りる。  しかしノートを探している男性も女性もいない。  それを見て少しだけ駅で待っていようと思い、私は駅の椅子に座り待っていることにした。  時間にして五分、十分程度だろう……それ以上待ってしまえば私が遅刻してしまうから。  だが、友達とはすれ違うが落とし主が現れることはなかった。 「でさぁ、林檎っちは朝……駅で誰を待ってたのー? もしかして彼氏とかぁ?」 「違うよ、そもそもうちは女子高でしょ」  共学ではなく女子高。  サラリーマン以外で駅に姿を現す男性と電車に乗っている関係者以外の男性はいない。  だからあの落とし物のノートは女性ではないかと考えた。 「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……これって男性か女性、どっちが書いてるかわかる?」  私は拾ったノートの最初のページを友達に見せた。  するとあとから来た友達の一人がこう言った。 「これ男の人の絵よね、私、漫画はけっこう読むけど……男と女じゃ絵のタッチが違うから直ぐに気づいたよ」  その言葉を聞いた私はノートを閉じ、鞄の中に戻した。  すると友達達は笑顔を浮かべるだけで私がどうしてそのノートを持ち歩いていたのかは突っ込まないでいてくれた。
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