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「…………梨歌」
掠れた声が出る。
梨歌は「ん?」と首を傾げた。
彼女を見ていると言葉が続かなくなって、オレは目を逸らす。
告白には勇気がいる。
そんなこと言われなくてもわかってるよ。
わかっていても、あの日落とした勇気は返ってこない。
……でも。
「え、っと」
でも、その代わりに。
オレにはもう両手に余るほど持ってるものがある。
それは勇気の代わりと言うには、あまりに後ろ向きなものだけど。
もう、この際なんだっていい。
この乾いた喉に詰まった言葉を押し出してくれるなら。
「……オレ、さ」
拳を握る。息が苦しい。声が震える。目が乾く。頬が熱い。唇が固まる。
こわい。こわいよ。
今も、この場所を失うのが心底こわい。
それでも、言葉を絞り出す。
オレにはあいつみたいな勇気はない。
でも、もうあんなの嫌だから。
勇気の代わりに、抱えきれないくらいの薄暗い感情を搔き集めて力に変える。
一年ちょっとの。
「梨歌の、ことが、」
――――ありったけの後悔を集めて。
「好きなんだ……っ」
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