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テレビの中では知らないバンドがインタビューを受けている。
隣の部屋から豪快なシャウトが聞こえた。
彼女の返事は聞こえない。
しばらくオレも黙っていたが、その沈黙に耐えきれずちらりと横を向く。
すると、彼女はこちらを向いていた。
いつもの笑顔じゃない。
涙で潤んだ黒い瞳と、真っ直ぐに目が合う。
「……ありがとう」
震える声で彼女は言った。
「ほんとは今日で最後にしようと思ってたんだ。このまま何もないなら会うのもちょっと辛いなって思ってて」
楽しすぎて、辛いなって。
彼女はそう言った。
ず、と鼻を啜る音がする。
「だから、言ってくれてありがとう」
彼女は大きな瞳を歪ませて、溢れた涙が頬を伝う。
「今日のわたしは、幸せです」
オレは梨歌のそんな笑顔を初めて見た。
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