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どうして世の中にカップルってのは、こんなにいっぱいいるんだろうな。
日曜日の駅前ロータリーに溢れる待ち人たちを眺めながらオレは思った。
ロータリーの中心に立つ名前の知らない大きな木は枝葉を揺らし、快晴の空はそれらを明るく照らしている。
確かに絶好のデート日和だよな、こんな日は。
かくいうオレも待ち合わせの一人だ。まあデートじゃないけどさ。
「にしても、早く着きすぎたな……」
オレは左腕の時計を見て呟いた。まだ約束まで30分もある。
何度目かの深呼吸をする。緊張してんなあ、と自分でもわかる。
中学の頃は全然そんなこと思わなかったのにな。
電車が到着する。駅から人が一気に出てきて、そのうちの何人かが待ち人に近付いていく。
その中のほとんどがカップルだ。さっきから何組ものカップルが出会う瞬間を見てきたが、これは本当にすごいことだと思う。
だってカップルの数だけ、告白があったってことだ。
それはつまり勇気の数と等しい。ここにいる全員勇者かよ。
告白には勇気がいる。
今日を応援してくれた友達の言葉だ。
それはすごく当たり前のことだけど、オレの中に重く響いた。
――勇気。
それはきっと、あの日オレが落としてしまったものだから。
次の電車が到着する。
駅からまた人がどっと出てきて、オレはその中に見覚えのある顔を見つけた。
その彼女は右手を挙げる。
「よっ、洋介」
「梨歌。久しぶりだなあ」
「ほんとそれ。中学卒業振りだから一年ちょっとくらい?」
あはは、と笑う彼女は昔とあまりに変わってなくて。
オレはもう一度小さく深呼吸をした。
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