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奏多梨歌とは中学生時代、とても多くの時間を共にした。
いわゆる親友。そう、悲しいくらいに親友だ。
オレは梨歌のことが好きだった。しかし彼女とは親友の壁を越えられないまま、中学卒業を境に離れてしまったのだ。
……いや、あまりに保身的な言い方だな。
オレは逃げたんだ。
壁を越えないことを選んだわけでもない。壁があることからも目を逸らした。
オレには勇気が無かったから。
「で、カラオケだよね?」
「おう。オレたちと言ったらそれしかねーだろ」
――でも、今日。
オレは彼女に連絡を取った。
自分の気持ちをもう一度確認するために。
そして、気持ちが変わっていなければ、今度こそ。
「確かにわたしたちカラオケばっか行ってたわ。つまりカラオケは第二の故郷!」
「久々の帰郷だ! 全力でいくぜ!」
「よっしゃー盛り上がってきた!」
満面の笑みを浮かべて彼女は「いえーい!」と勢いよく右腕を振り上げた。「うお、あぶねー!」とオレはその腕を派手に避ける。「すまんねえ」と反省の色を見せないまま彼女は笑う。
緊張はもうなかった。
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