受話器を置いた音が聞こえて

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　中学三年生の時、右隣の席に座っていたのが梨歌だった。
　だからといって特に話すこともなかったし、オレたちは自然と仲良くなっていったわけじゃない。

　つまり、きっかけがあった。
　本当に些細なオレの失敗談。

「洋介、サッカーやるけど行くか？」

　昼休憩のチャイムが鳴って、クラスメイトの尚人(なおと)が歩み寄ってくる。こいつは毎年何故か同じクラスにいて気付いたら友達になっていた。

　そんな彼からの誘いは嬉しかったが、今日のオレには大事な用事があるのだ。

「悪(わ)りい。今日はやめとくわ」
「おう、そうか」

　そう軽く言って、彼は教室を出て行った。
　彼はまた明日も声をかけてくれるのだろう。本当にいいやつなのだ。

　さて、と。
　オレは鞄からスマートフォンを取り出して机に置いた。ホーム画面を開いて動画アプリを立ち上げる。

　今日はオレの大好きなバンド、バートレットの新曲MVの公開日だ！

　どれだけこの日を心待ちにしたことか。音源を聴いていた頃からずっと楽しみにしていた。
　昨日なんてあまりにワクワクして眠れなかったから、つい尚人に『眠れない夜には羊を数えればいいって言うだろ？　あれ嘘だ！　さっきやってみたけど羊増えすぎて逆に眠れなくなった！　これ絶対なんかの陰謀だよな！　羊毛に溺れる15の春』とメールしてしまったくらいだ。無視されたけど。

　まあそれはさておき、今はMVだ。
　立ち上がったアプリ画面に新曲MVのサムネイルが表示される。いやもうかっこいいんだけど！

　ヒートアップする自分を感じながら、イヤホンジャックにイヤホンを差し込む。
　そして震える指で再生ボタンを押した。

　しかし、イヤホンからは何の音も流れてこなかった。