51対49

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51対49

 あの人はこういう人だと思っていたのに急に違う面を見せられ戸惑うことがあります。  明るく見えていた営業マンが急に嫌になったと会社を辞めた。また、別れる別れると言い続けていた女性が、あっさり復縁し仲良く手をつないで歩いているなど。  営業マンは周囲に明るく見られていた裏側で、続けようか辞めようか揺れ動いていただろうし、別れを口にした女性は本心では復縁を望んでいたのでしょう。  人の心はどちらに勝敗が決まるか分からないところで揺れていて、何かのきっかけでどちらかに軍配が上がり、周囲はそれを見て驚くのだと思います。  オカルト研究部シリーズ弍の冒頭では、初めての恋愛で失恋し道路の白線上をフラフラ歩く女子高生が登場します。  この冒頭部分は、臨床心理学者、河合隼雄さんの著書『こころの処方箋』の一章『心の中の勝負は51対49のことが多い』よりイメージして書きました。  シリーズ弍に登場する女子高生は、猫から花をもらったことで前向きに気持ちが切り替わります。  反対にシリーズ参では居酒屋で見知らぬ人に笑われて、積もり積もった怒りが爆発する中年男性を書きました。  私の隣に今まさに51対49の心の戦いをしている人がいたとして、私の何気ない愛情や何気ない悪口によって勝敗が決まってしまうかもしれない。そういう怖さを書いてみたかったのです。  そんなことを気にしていたら、隣人に何も言えなくなってしまいそうです。隣人ならば何度か顔を合わせ誤解を解いたりケアをしたり可能かもしれませんが、ネットの中など見知らぬ通りすがりの人の言葉は一方的に相手を殴る鈍器になってしまいます。  と、ここまで説明しないと伝わらないと思うともどかしい。小説で説明しすぎると説教臭くなるだろうし。説明しても(説明が悪くて)伝わらないかもしれません(*_*)  今年はコロナでいろいろあって、悲しいニュースもあって、自分の中にあるいろんな怒りみたいなモヤモヤしたものを小説に書いたことで少し違った自分に出会えました。  なので、自分が書いた小説を読んでいただいて、さらにナツイチ優秀作品に選んでいただけるなんて! 人生悪いことばかりじゃなかった。  51対49の私の戦いは「また小説書いてみようかな」に軍配があがりました。  ありがとうございました!              
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