何ら変わらない昼

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 ゴーグルを投げ捨て、アンフィスの操縦席に向かった。1発殴ってやりたい衝動に駆られるが、単に動きの先の先を読まれて上を取られただけだと恥ずかしくなった。  それでも身体は止まらず、アンフィスと対峙する。  アンフィスの表情は今朝と同じだった。  何もない。喜びも怒りもない。楽しさもない。嘲りもないのは幸いだった。  悔しさより惨めさが勝った。フゥルはまだ殴りたい衝動に駆られていたが、何を殴りたいかはわからなくなっていた。  勝てると思っていたのだと、ふと気づく。相手は遥か上にいた。それに気づかないほど愚かだったのだ。 「お前に勝つには、どうすりゃいいんだ」  なんて馬鹿な質問だと笑ってしまう。負けた相手に答えを聞くなんて。けれど質問より、愚かなのは自分だ。 「お前は撃墜数が群を抜いて多い代わりに、被撃墜数も飛び抜けて多いな。速さに頼って、他が疎かになっている」  意外にもアンフィスは応えてくれた。フゥルは拍子抜けして、話に聞き入ってしまう。 「サラマンダで死ぬことはない。それがお前の心の隙だ。実弾なら、もう何百回も死んでいる。今だって、死んでいた」  淡々と話すアンフィスの瞳があまりに暗くてぞっとする。どう生きれば、そこまで光を拒絶できるのか。 「あんた、すげえよ。どうやって訓練したらそこまで自由に飛べるんだ?」  思わず出た問いだったが、アンフィスの瞳に僅かな光の揺らぎを見た。 「…お前の方が、すごい。俺よりずっと」 「なんだよ、けんそんってやつか? キャラに合わねぇぜ。やめろよ」 「違う。本心から言ってる。俺よりずっと、お前は、自由だ。地上と空ぐらい、差がある」  そう言って彼は去っていった。いつも去り際が早い。どこかの雑誌で見たカトゥーン内の正義の味方みたいだと思った。
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