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気怠い夕方
「知らねぇな、そんなこと」
同じ台詞を何度聞いたか。フゥルはうんざりして盛大な舌打ちをした。周りの何人かが何事かと振り返る。
訓練場での一戦依頼、彼はアンフィスのことに興味を持ち、調べて回っている。だが皆が彼について知っているのはランキングと名前ぐらいのものだった。
「ウィルモットなら知ってると思うわ」
男に肩を抱かれながら古株のラズリィは「食堂にいたわよ」と教えてくれた。フゥルは感謝もそこそこに走り出す。
ウィルモットはラズリィと同じく古株で、正確にはわからないが、アンフィスの次くらいにFDC歴が長いようだった。順位に多少変動はあるものの、常にエースで居続ける数少ない1人だった。
彼は食堂でフランクフルトを頬張りながらコーヒーを飲み、タブレットで衛星ニュースを眺めていた。そんなことをするのはパイロットでもウィルモットぐらいだ。
「ウィルモット、食事中悪いな。アンフィスについて知ってることを教えてくれよ」
彼は咀嚼するのを止めず、飲み込んでから「なぜだ?」と低い声で尋ねた。よく言えばマイペース、難しく言えば狷介。彼のペースというものがあり、ルーティンがあり、信念があり、それらを曲げられることを嫌う。
「ちょっとな。知りてぇんだよ、あいつのこと」
「次の対戦相手だからか?」
フゥルは反射的にタブレットの画面を見た。ウィルモットも彼に見やすいよう向きを変えてくれている。確かに今週末のファイト・リストに彼とアンフィスの名前が載っていた。
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