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はじまりにふさわしい朝
フゥルは赤く腫れ上がった左頬を冷やしながら、苛立つ心をなんとか鎮めようと懸命だった。その様子を見て、ラズリィが笑いを堪えきれないでいる。
つい30分前のことだった。
フゥルは意気揚々とアンフィスに話しかけようと広い食堂内を見渡して彼を見つけ、大股で近づいていった。わざわざサンドイッチを朝食に選んだのも、移動しやすいようにと思ったからだった。
近づいただけで、ちゃんと挨拶もしたのに、返事もなくあからさまに眉間に皺を寄せるアンフィスを殴りたい衝動に駆られながらも「こいつは病人なのだ」と抑え、フゥルは彼の肩を掴んだ。
「お前、ディプレッションだろ。死にたいんだ、そうだな? オーケー、望み通り殺してやるよ。次のファイトで参加希望しろ。俺が集中砲火を浴びせてやる。その代わり、お前の名声の上に俺が座る。交換条件だ」
アンフィスは飲みかけのコーンスープを一気飲みし、食べかけのピタパンを手に持ち立ち上がった。肩を組んでいたフゥルは体勢が崩れて
危うく転びそうになっている。
「おい、危ないじゃねぇか」
「今の、聞いていたぞ」
しゃしゃり出てきたのはオリバーだった。フゥルの一回り縦も横も厚みも大きい彼が目の前に立つと相当に圧力がある。
「君、そうやって人のことを断定して判断したりするのは良くない。戦った末の結果ならまだしも、自ら殺す、というのも良くない」
いい子のオリバー。フゥルは口の中だけで呟いた。面倒な奴に捕まったものだ。彼の肩の向こう側にアンフィスが素知らぬ風に去っていく姿が見える。彼は焦った。
「オリバー、それは誤解だ。俺は奴の心を救おうと思っただけなんだよ」
フゥルはとにかくこの場を逃れようと考え口を動かしたが、だんだん面倒に感じ出した自分も現れた。
「救いは死の中にない」
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