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違う生き物かと思うぐらい無意識の間に手が出ていた。でも無理はないと彼は瞬時に気持ちを切り替える。
フゥルの1番嫌いなものは自分で思い込む正論を振りかざす人間と何にでも頭を突っ込む人間だった。2番目は砂糖を入れすぎたコーヒーだ。
オリバーは自分から手を出すことはないが、出されたら別で、自己防衛だと叫びながら殴り返してくる人種だった。
つまり、2人の相性は最悪。
ユーシュエンが止めに入るまで2人は15分ほど殴り合いを続けていた。見える部分も見えない部分も両者ひどい有様で、見てられないと顔を顰める者もいた。
FDCは無法地帯だ。FDCの施設内では、地上に限定して、誰かや自分の命を奪うこと以外は何をするのも自己責任として許される。
そうやってフゥルの今が出来上がった。
「馬鹿、すぐ手が出るんだから」
慣れた風に手当てをするマリエが真剣に言った。彼女は面倒見がよく、パイロット兼医務室担当のようになっていた。つまりはフゥルのような喧嘩早い連中の手当てを頻繁にしている。
「俺は悪くないんだよ。良かれと思って言ってやっただけなのに。オリバーの奴、頭が固すぎる」
はいはい、とマリエは聞き流している。
「大体何でアンフィスがディプレッションなの? そんなこと、感じたことないけどなぁ」
よくぞ聞いてくれたとフゥルは身を乗り出す。
「この間の休みに街に出たら、あいつが精神病院から出てくるところを見たんだよ。FDCの放任主義、ファイトの恐怖でディプレッションになる奴は多い。あいつも例外じゃなかったんだ」
それを聞き、マリエは口を大きく開けて笑い出した。フゥルは訳がわからず、お腹を抱えて涙を浮かべてさえいる彼女を不思議そうに見ていた。
「それ、違うよ。アンフィスじゃない。確か、彼の親族の誰かが病気で入院してるって聞いたよ。ただのお見舞い。残念だったね」
まだ苦し気に笑いを堪えるマリエを見ていると苛立ちが募り、フゥルは医務室を勢いよく飛び出した。
自分の予想が外れていたと知り、肩落ちするのと同時に苛立つ感覚。苛立ってばかりだ。フゥルは自嘲する。
ートップスターになれるチャンスだと思ったのに。
フゥルは壁を殴る代わりに「クソッ」と大きな声で叫んだ。
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