何ら変わらない昼

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 アンフィスは一瞥しただけで答えなかったが、フゥルがログインすると彼から対戦リクエストが来ていた。  このVRはFDCが他国にも売りつけていて、全世界の人間と対戦することができる。1度エースと対戦したいというファンが大勢いて、エースがログインした瞬間対戦リクエストが星の数ほど上がってくる。いつもなら適当に数人選んで対複数戦をするのだが、それらを全て跳ね除け、アンフィスのみを選択した。  VRの中では対戦場所を自由に選べる。実戦は高層ビル群の舞台しかないが、海の上や対地上戦などもできたりする。今回は対戦を受けた側のフゥルに選択権があった。彼は迷いなくいつもの舞台を選ぶ。そこでしか戦わないのだから他の場所を選ぶ必要がなかった。  VR内の対戦はドラゴン・ファイトとは違い、時間制限ではなく機体を撃墜するまでの戦いだ。実戦と違う設定が気に食わなくて、フゥルは訓練場にあまり来ない。  対戦まで3秒。最初の配置だけは選べない。フゥルは目を瞑り、意識的に深い呼吸をした。集中を胸と腹に溜め込むイメージ。彼はそれでいつも集中と戦意を高める。  配置は真正面だった。高層ビルに挟まれているものの、ちょうど隙間からアンフィス機が見えた。それは向こうも同じだったろう。お互いにお互いを正面に見据えていた。フゥルはそれを理解した瞬間フルスロットルでアンフィス目掛けて突進した。フゥルの呼び名は“疾風”。誰よりも早く飛ぶ。  お互いの射程距離圏内に入ったと思った時、アンフィスが目の前から消えた。      しかしもちろんそう見えただけで、右隣のビルの後ろに回ったのだとすぐ理解する。彼の得意技だ。有るものをうまく使う。
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