彼はルームメイト

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彼はルームメイト

「今日は長さはどうされますか?」 美容師は鏡の中の私にそう声をかけた。 「少し短くしようかと思ってるんだけど。肩のちょっと下くらい。似合うかなあ」 「こんな感じですかね」 彼は毛先を少し丸めて、私の言った長さに似せて鏡の中でほほ笑んだ。 「お似合いだと思いますよ」 「じゃあ、そのくらいで毛先にパーマでお願いします」 私は鏡の中の彼と目を合わせ笑顔でそう言った。 この美容室に通い始めて三年半。今年から担当になった美容師君はなかなかかっこいい。カットも丁寧で気に入っていた。 あの会話から一年足らず。 今その美容師、高橋譲は私のルームメイトとなっていた。 きっかけはその日の雑談、美容院でのお客である私との接客の会話のひとつ、ほんの雑談からだった。 私たちの町で謎の発光体騒ぎがあり、マンションのベランダから私も見たのよ。と私は話した。譲君はそれに興味を示して、マンションという言葉にも反応した。 「旦那さんと一緒に見たんですか?」 そう訊かれて、あまり個人的な話はしたくない私がなぜか彼にはすんなりとバツイチで1LDKの賃貸マンションに一人で住んでいると打ち明けた。 すごいですねー、と感嘆する彼に 「ちょっと背伸びして住むところは選んだの。私は結婚には向かないって分かったから一人で定年まで働こうって。賃貸だったら飽きれば引っ越せるし気楽でしょ」 「ああ、自分も結婚はしない気がします。家事とか何でもできるしこうやってお客さんと会話するんで帰ってからは一人でも寂しくないし、あんまり縛られたくないかなあ」 私は笑って 「まだ若いから気が変わるんじゃないの?私はもういい歳だし一度失敗してるから」 「まあ、絶対気が変わらないとは言えないですけどね。そんないいマンション自分も住んでみたいな。部屋の片隅でも空いてないですか?」 私はそんな軽口に合わせて 「うちのリビング3畳の畳コーナーがあって押し入れもあるの。リビングから目隠しのついたてみたいなのもあって、そこに寝泊まりできるかも」 「いいっすね。よろしくお願いします。掃除でも何でもしますから」 「掃除してくれたらうれしい」 「じゃあ、もう決まりですね。まじ、引っ越したいんですよね」 「彼女に怒られるよ。恨まれるのはいやよ」 「いや、今いないんで」 「ホントなの?じゃあ、下見しなきゃね、アハハ」 冗談でも楽しい会話だった。 私は三十九歳。もう三年以上男の影はなかった。マンションは気に入っているがあくまで一人時間を楽しむ場所となっていた。
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