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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
僕は小学2年の夏休みの終わり、二学期のはじめに坂の下にある小学校に転校してきた。挨拶のとき、二年二組のみんなの前で泣いてしまい、それがきっかけでしばらく僕の泣き真似がクラスで流行った。
「大野の真似、みなさんよろしくお願い、おねがい、おねがい……わーん(泣)、わーん(泣)、お母さん〜!」
そんなふうに、僕は、とるに足らないことで泣き、話すときの声がすごく小さくて、落ち着きのない子で、しょっちゅう忘れ物をし、とても性悪で、ねたみ深く、とにかく根性のひん曲がった子供だった。
ここでその頃の記憶を少し話してみようと思う。
小学校3年生のとき、クラスに伊藤という男の子がいた。伊藤はとりわけ勉強がよくできた上に、すごく落ち着きがあり、少し高飛車な感じがする奴だった。
僕は、伊藤が転校していくと聞いても、特に気にしなかった。正直、あまり好きではなかった。
だから、みんなの前に出て伊藤がお別れの挨拶をしている時も、悲しくもなく、まあ普通に聞いていた。
するとそのとき、伊藤が「みなさん、いろいろとありがとうございました」とか何とか言おうとしたらしかったが、いきなり泣き声になって、涙がとめどもなく溢れ、熱いかたまりが彼の喉をふさいだ。
僕は思いもかけず驚いた。あの伊藤がみんなの前で泣きじゃくったのだ。
森尾先生は、伊藤の頭を撫でていた。
というわけで、しばらく伊藤の泣き真似が流行った。
「伊藤のマネ。みなさん、いろいろと、いろいろ、わーん、わーん」
僕が先頭になってやっていた。
とりとめもなく溢れてくる涙を止めることができずに泣いた伊藤が、なによりも素敵だったことに気づくのは、まだずっと先のことだ。
伊藤は、僕のことなど覚えちゃいないだろうけど、伊藤の涙は僕の記憶に強烈に残った。
あとは、小学校4年の時。帰りのホームルームの時間に、今日の出来事や何かを話したい人が手を挙げて話す、ちょっとしたアホくさい反省会みたいなものがあった。そこでいろんな奴が僕にされて嫌だったことを話し、僕のことがみんなの議論の的になった。これは、ひとつには僕が嫌われていたからであって――
「今日、大野君にちょっかいを出されて嫌でした」
「今日、大野君に蹴飛ばされて、とても痛かったです」
「今日、大野君にパンチされそうになって、とてもいやでした」と、まあこんな感じで次から次へとクソミソに言われるものだから、胸の中にはみじめさが渦巻いていたが、僕は必死の思いで軽く受け流そうと平静を装い、内心のおびえをひた隠しにした。
自業自得とはいえ、この時から僕はこいつらと担任の水沢が嫌いになった。いや、ちょっと言い過ぎかもしれないが、ただ仲間意識なんてものはない。だって、たいていこういう場合はユーモアを交えて対処するのが一番なのに、真面目な顔で対処されちゃたまらないよ。あれで水沢は家に帰れば、セックスしたり、エロ本を見たりしながらオナニーしてるんだろう。ぞっとするな。
それから、小学校5年の時、担任のいけすかないババア、堀之内から今日一日中一言もしゃべるなという罰を受けたことも。今なら、「ならいてもしょうがねーから、俺家に帰るわ」と言って帰れるけど、文句を言おうにも、まだ小学生だった僕は、堀之内の言いなりだった。
おまけに堀之内は陰気なサディストだから、食べられない給食を残さず食べるまで許してくれないクソババアで、僕は掃除の時間になっても、臭い雑巾と黒板のチョークの粉が飛んでる中で牛乳と戦わなければならなかった。でも、なかなか楽しかったよ。マゾなもんでね。
またそのころ警察に逮捕された。
実際には逮捕とは言わないようだけど、自転車泥棒でお巡りさんに捕まった。
取調室に連れて行かれた時には、かつ丼が食べれるのかとドキドキした。
しかし、すぐに親が呼び出されて、僕を連れて帰り、その夜は何も食べさせてもらえなかった。
もう二度としませんと謝ったが、そのあとも自転車泥棒で3回捕まった。
2回目の時は少年院に行くか?と、警察の人に脅かされ、3回目に捕まった時には、一生懸命に勉強して警察官になれと励まされた。そして4回目に捕まった時にはもう誰も相手にしてくれなかった。
そのうえ、やたらめったら盗んでたから、それがいけなかったんだろうな、一学年上の先輩の自転車だってこと知らないで盗んでしまい、誕生日だった奴にあげたら、そいつがそのあと先輩たちにボコボコにされたなんてこともあったみたいだけど、今じゃ、笑い話さ。あはははは。
多分。
あとは、こそくな嘘は何度もついたし、ごまかしもした。いじめられもしたし、いじめもした。女の子を2回ほど殴ったこともある。確か小学校3年と、中学2年の時だ。そのときのことはさすがにいくら僕でも書く気になれないけど、そうだったってことだけは書いておこう。
要するに、こんなふうに、不名誉なことばかりで、だれかも好かれることなく、嫌われていったんだと思う。
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