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そんなある日、帰りのホームルームの時間に、先生がみんなの前に立ち、永井が転校することを話した。
僕は目を上げて、はっとした。息が詰まりそうになった。
あたりを見回すと、水を打ったように静かだった。
まだ中学一年になって二ヶ月もたっていなくて、なんとなくそっけなかった。坂の上の小学校から来た生徒たちはなおさらのこと、悲しいという感情は見受けられなかった。
それに永井は小学校四年の三学期か何かに転校してきて、あくまでも憶測だが、坂の下の小学校ではいささかはぐれ者的な存在だったように思う。今では普通だけど、永井の家は母子家庭で、彼の母親は水商売をしていたしさ。まあ、僕と違って、協調性はあったけどね。
いずれにせよ、永井はみんなから目をそらしながら立っていた。
沈黙が訪れて、覚えている限りでは、先生もどうしたらよいかわからないようで、ホームルームが終わると、やがてみんなががやがや帰って行った。
永井にさよならが言えればよかったんだけど、僕は、とうとう永井と目も合わさずにそのまま帰ってしまった。
とにかく、まだ1984年の5月かなんかのことで、気がつくと永井はいなくなっていた。そんな感じだった。
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