花の下

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「700年の昔、疎石という大層イケメンの僧侶に恋焦がれて、京の都から追っ掛けして来た遊女の名が野守大夫。でも、どんなにストーキングしても、相手は僧侶だから、叶わぬ恋に世を儚んで池に身投げしたんだ。疎石は野守を哀れに思い供養して、それからその池は野守の池と呼ばれるようになったというお話」 「ヘぇ…それ、伝説なんですか?」 「まぁ、700年前だからねぇ。因みに疎石は後に夢窓国師となり、鎌倉末期から室町時代にかけて、禅宗史、仏教史は元より、中世文化史に大きな足跡を残したスーパーマンなんだよね」 「そう…知らなかったなぁ」 「ん…誰も手の届く処のことは案外知らないんだ」 夢窓国師を検索してみる。関連ワードに野守の池とあった。 俺が見たのは疎石だったのだろうか。 「着いたよ」 コウさんの声に画面から目を上げると、名残の桜。爛漫の桜色は既に消え失せていた。
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