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「コウさん、野守大夫は幸せだったと思います?」
「さぁ…想い続けてる間は幸せだったかもしれない…散る桜、残る桜も散る桜って言うだろ。いづれ誰もが散る。たとえ結ばれることがなくても、想い続けて散ったのなら、幸せだとも思えるか…」
そして、コウさんは写真をまじまじと見て言葉を続けた。
「花ほどに短くはない。人の人生は山登りに例えられるだろ。山は真っ直ぐ一直線には登れないんだよ。緩やかに螺旋を描いて登って行く。それを知らずに滑落したんだな。きっと」
それは、野守大夫のことではなく、コウさん自身のことに聞こえた。
手の届く処のことは案外知らない…。
写真を穏やかな目で見てから、ゆっくり立ち上がった。
桜の樹の下に眠る様々なモノ。
木陰だったはずの場所に、日差しが降り注ぎ、池の表面が光で泡立って見える。
残りの花を散らす、花の風巻き。
池は優しく花を受け止めていた。
「また、花の春に…」
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