香る夜

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ひと夏腑抜けて、余り顔も出さずに居た。 恋バナ顛末は、連れの彼女の友達と偶然が何度も重なり、意気投合したような気になった。 「これは運命ですね」などと微笑まれて、つい、運命かぁ。と思ってしまったのだが、城には敵わなかったというか、攻め込む前に白旗というか。 そんな処だ。 別に落ち込んではいない…と思う。 割とよく言われる。 「友達としてなら」と。 その境界線は何処にあるのだろう。 境界線…。 月を愛でるのに最適な場所。 何処に居ても、月明かりは等しく降り注ぐ。 高みからの方がいいだろう。 彼女の為にピックアップした山城へのドライブ、ハイキングコース。 近くはスワハラ城址。 こんな処で役に立とうとは…。 「コウさん、俺、一寸スワハラ迄走って来ますよ」 「え?今から?」 「ん、夜でなきゃ意味ないっしょ」 「まぁ、そうだけど、今夜は新月だよ」 「え…新月…あー、なんかもう、素直にコウさんの言うこと聞いてりゃ良かった。俺、浮かれてました?」 「ん、若干?」 「あー、やっぱか…まぁ、とりあえず、一寸行くだけ行って来ます。また明日寄ります」 「ん、待ってる。気をつけて行って来て」 春の桜、初夏の祓い、夏の水辺。 隔月の発行にテーマを絞り込む。今回は3週間近く早くあげないといけない。 既に暗い空を見上げて、西に向かってバイクを走らせた。
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