香る夜

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新月…。 次の満月は9月の頭。 コウさんは、やたらなんでも即答だ。 回転が早いということ。 ポーカーフェイス。 三十路にしては若くて見えるが、ジジ臭い。いや、老成してる。 女っ気もない。 というか、友達も居なさそうだ。 捉え処のない、時折見せる遠い瞳。 あの人は何と何処と誰と繋がっているのだろう… そんなことを考えながら、坂道を上り、少し下ると、まるで、此処から先城内である。とばかりに大きな門がそびえていた。 バイクを門前に止めて、門をくぐる。 スマホのライトに僅かに足元が照らされているだけで、かなり暗い。 突然、視界が開けた。 上って来たのとは、反対側になるのか、手前に僅かな灯りと、遠くに煙るような光が見える。 月は? 目を凝らして、暫く夜空を見上げていたが、月の在り方はわからなかった。 いつも、大抵行き当たりばったりなのだが、流石に今夜は引き返そう。 と思った時だった。 突然、強く甘い香りが鼻孔をくすぐった。 今迄嗅いだことのない、知らない香り。 花? 夜風が香りを散らす。 辺りに目をやるが、探せそうもなかった。 天に地に、なんの収穫もなく、花びらを一枚一枚拾うように、元来たであろう道を、ゆっくり戻った。 「明日、出直します」 門をくぐって、そう一礼をすると、 「待ってる」 と聞こえた気がした。 いや、それはさっきコウさんに言われたのだ。 坂の途中で見上げた夜空に、空より明るい灰青色の円が浮かんでいた。 新月…。
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