香る夜

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仕事の後、毎日通う。 月は上弦。 その夜は風が強く吹いていて、少し肌寒い。 夏が終わろうとしている。 季節の境界線は何処に引かれているのだろう。 境界線…。 地上の風は、空でも吹いているのか、雲が吹き払われた濃い青に、スパッと刀を振り下ろしたような半月が浮かんでいる。 ファインダー越しに、もう半分がくっきりと見えて、光が侵食していくのをいつまでも見つめていたい気分だった。 「綺麗だ…」 そう呟いた瞬間、不意に強く香った。 あの夜に出会った香り。 何処? 風が運んで来たのなら風上。 崖下?或いは、この高台の途中? 昨日も一昨日も、勿論、今夜も気づかずに来たけれど。 走っては危ないと思いながらも、走らずにはいられなかった。 何度も前のめりに転びそうになりながら、消えないうちに、香りの在り方を捕まえたかった。 やがて、風は止み、香りは焚かれているかのように、幾重にも俺を包み込んでいく。 息が苦しい。 指先に硬い木の感触。 そびえるように大きな冠木門。 何処をどう走って辿り着いたのか。 「花は何処?」 俺の問い掛けに 「未だ…」 そう門が応えた気がした。
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