香る夜

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翌日は、昼近くまで寝て、コウさんの所に出掛けた。 机に向かったままのコウさんに、話の糸口が見つからず見つめていた。 「何?」 「いや…」 「見つめられてると気が散る」 「ん…髪…伸びたなと…」 「なんだそれ。言いたいことがあるならはっきり言え」 「笑わないって約束して下さいよ」 「笑ったことある?」 「…ないかもだけど…」 俺は、初めて出掛けた新月の夜のことから、昨夜のこと。 冠木門と香りのこと。 自分でも、まるで子供が言い訳をしているみたいだと思いながら、ぐずぐずと話した。 コウさんは、辛抱強い母親のように黙って聞いていた。 「ね、それ、月の写真と関係ある?」 「関係は…ない…けど」 「それは何?花なの?どんな香り?」 「どんな…って…嗅いだことのない香り。人工的なものじゃなくて、もっと、なんていうか、やっぱり、多分、花の香り…コウさん、今夜行きませんか?」 「えぇ?シュウの仕事じゃん。やだよ。怖いし」 「なんで怖いんですか」 「出るだろ」 「何?」 「あー、怖いもの知らずの能天気」 「能天気って、真面目に言ってるのに」 「真面目に言ってないとは言ってない。じゃ、今から行くか。先ずは城址内を探検してから、暗くなるのを待つ。明日からは雨っぽいし」 「雨?」 「トリプル台風だよ」 「え、そうなんだ」 この人の言うことはいちいち正しくて、淀みない感じが、一寸癪に障る。
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