香る夜

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香りの共有化表現…小難しいことを。信じてないってことか? 俺が不思議に思いつつ通ったこの1週間を、まるで城址ガイドのように、いとも容易く歩き、幻のひと言で片付け、心地良さそうに昼寝しているこの人こそ、香りの言語表現並に難しい。 身包み剥ぎ取って頭の中も心の中も見てみたい。 スマホのアラームに身体を起こすと、 あたりを見渡し、空に目をやった。 「さてと、とりあえず、戻ろう。車、置きっぱだし。なんだ?テンション下がってない?」 「いや…別に…なんとなく。それに、明日の17時以降、降水確率80%ずっと雨だ。なんか萎える」 「雨雲より上で撮ればいいじゃん。月はいつも輝いているんだからさ」 そう言うと、立ち上がり尻をはたいて柵の下を覗いてから、元来た方へ歩き出した。 雨雲より上って何処だよ。 車に戻ると、急に、帰るよ。と言って発車した。 「え、月の出まで居るんじゃなかったんですか?夜食も買い込んだのに」 「シュウが迷ったって以外収穫ないし、歩き疲れた。多分今夜は曇って無理」 「もぉ、コウさん、なんか酷い」 「2日か…満月の夜にまた来よう。もし雨が降っても」 「ホント、約束ですよ」 「指切りする?」 「しません…」 肩透かしを食ったような気分だったが、素直に従うことにした。 コウさんの言った通り、その夜は雲が低く垂れ込めて、上弦から少し膨らみかけただろう月も、星々も見えなくなっていた。
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