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そうして、それから3日、続けてやって来た台風の影響で雨が続き、写真どころではなかったが、満月当日には、雲の払われた空に、大きく赤銅色に輝いた月が上ろうとしていた。
俺は、仕事を終えて大急ぎで帰宅すると、直ぐにコウさんの所へ行った。
「台風一過。晴れて良かった。シュウの花も待ちかねているよ」
と言った。
花…。
月は緩やかに中天に向かう。
コウさんはこの間と同じ道を上り、行き止まりの手前で車を停めると、見えない門をくぐる真似をする。
大きなライトに案内させるように歩くコウさんの後を追う。
急に視界が開け、
「シュウ、この高さ。違う?」
と尋ねた。
高さ?
ああ、そうだ。この前、柵から望む風景に、なんとはなしに違和感を覚えたのは、明るさではなく目線の高さ。
そして、指差す先から香り立つ。
まるで向日葵が太陽に向かって咲くように月の光を浴びる花。
この香り。
あの夜よりずっと強く、華やかに。
俺は、這いつくばるように、月と花が一コマに、月の光が花に降り注ぐのを逃さまいとシャッターを切った。
その瞬間だった。
ゆっくり開いたであろう、薄い何枚もの花びらは、何か伸び上がるようにして、舞い上がり、はらはらと崖下へと散り落ちて行った。
光を浴びるのを待って、その刹那に散って行くなんて…。
花びらを一枚、二枚、抱き留めた。
「死にたいの?」
腕がぐいっと掴まれた。
切り立つ崖。
香りは俺達を包み込んで、するりと逃げて行く。
カメラを地面に落としたまま、立ち竦んでいる俺の背をコウさんの手がそっと触れた。
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