うそうそ時

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早い雲の流れに月明かりが遮られる道なき道を走っていた。 誰から、何から逃げているのか、躓き転びながら走った。 崖っぷちに僅かに指先が掛かってしがみ付く。 頭上に銀色に光る刃が振り下ろされようとしていた。 ワァッともグゥッともつかない悲鳴を上げ、しがみついていた指先か離れた。 「痛っ」 ソファーから転げ落ちた。 「あー、起きた?」 「ん、ああ、はい…あー、いつの間に寝た。夕べってか、今朝っていうか、遅くて…」 「まだスワハラ通ってるの?」 「まぁ。一寸…正体とか知りたいじゃないですか」 「そう?」 「そう?って、コウさんも見たでしょう?」 「いや、見てない」 「ええっ?」 「夢の話?」 「いやいや、しれっとよく言いますね」 「何の正体?花?香り?声?冠木門?」 「いや…う〜ン。何っていうか…全部…どうしても気になって…」 コウさんは少し考えるように言った。 「風が運ぶ…香るのは花だけじゃないし、木の幹や葉も香る。夜気も土も混じり合って届く。それに、多分次の巡りまで会えないから」 「次の巡り?」 「スワハラで葉月新月の夜から始まり、満月の夜に終息した攻防の顛末」 「そんな…」 声を聞き、見て、掴んだ幻…。
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