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遠くなる山々に、白、或いは薄い桜色が、風で流れて帯のように見える。
そういえば、家の近くの公園の桜はどうだっただろう。
鮮烈な記憶の一枚。
葉桜になりかけた樹の梢を舞う黒い蝶に、届かない手を伸ばすコウさん。
コウさんは、三軒先の大きな屋敷に住んで居る。
歳の離れた姉は医師。金持ちだし、子供は優秀だし、さりとて、偉そうでもなく、絵に描いたように素敵なお宅とか。そんな話をよく聞かされた。
近所でも評判の優等生は、県下屈指の進学高校、難関大学と進学し、大手一流企業に就職。そして、それから二年ほどして抜け殻のようになって帰って来たと。
食卓に上る噂話は、褒めたり羨んでみたり、なんだかんだ言って普通が一番ね。などと適当なものだ。
五歳年上なので、接点はないまま、そんな話を耳にするだけだったが、或る日、裸足で飛び出して来たコウさんに遭遇した。
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