うそうそ時

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文化財保存資料室へ寄る。 其処の先生によると、保志乃合神社は、元々は階段が始まる辺りに在ったが、明治の終わり頃、大雨が続き、あちこちで土砂崩れが起きて、神社も跡形もなく流されてしまったという。随分長い間、本宮だけ取り残されるように放置されていたが、10年ほど前に、突然三人の神職が現れて管理していると。 コウさんは、神社に狐はいたか?とか、三柱鳥居のことや、根掘り葉掘り尋ねていたが、文献の類いがあるわけでもなく、詳しいことはわからなかった。 そして、車はスワハラへと向かう。 「アカリ、ハク、テンって、変わった名前だと思わない?」 「様…ですって。まぁ、女子が付けた通称かもですけどね」 「そっか…」 「それが何か?っていうか、何しにスワハラ行くんです?俺には取り憑かれるとか言ってたくせに…え?あ、狐?」 「正解」 川底から見つかったとなれば、土砂崩れで川まで押し流されたとしても不思議はない。 資料センターで狐のことを尋ねた。 出所はわからなかったが、民俗資料倉庫内整理の際に見つかり、神社の狐だとしたら、廃棄するわけにもいかず、取り敢えず持ち込んだ。ということだった。 「冠木門は見当たらないねぇ」などと俺をからかいながら、諏訪神社へ向かう。 神社といっても、小さな鳥居の先に小さな祠があるだけだ。 コウさんは、二拝二拍手一拝をきちんとした後で、狐の前に跪くようにしてしげしげと見つめていた。 「脚は可哀想だけど、耳も尻尾も顔も案外綺麗だな。頬の上が少し削れてるか…玉を咥えてる。よく落とさずに頑張りましたね」 「コウさん、誰に言ってるんですか」 「ああ、なんか、そう言ってあげたい感じ。また…お迎えに上がります」 コウさんはなんだか嬉しそうな顔をしていた。
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