うそうそ時

10/16

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
城内を一周、ゆっくり歩いた。 富士山が、手を伸ばせば届きそうな先に綺麗に見えた。 空の色が、神職の袴の色と重なる。 秋は空が澄んで綺麗だ。 背中の方から、ススキが風に揺れる音が小さな波音のように聞こえて来る。 「気持ちいい。シュウに誘われた割には、朝から有意義だったなぁ」 コウさんは、大きく伸びをすると笑った。 「それはどうも。お気に召して頂いて」 「あ、今日の日没…」 「え?日没?えーと、16時51分」 「戻るのは無理か。シュウ、新春号は御朱印でいいい」 「え?いいんですか?なんか、嬉しいかも。来年は俺も御朱印巡りしようかな」 「それは、まぁ、好きにすれば。あ、一緒には巡らないから」 「今、馬鹿にしたでしょう?」 「してない。それよか、きっちりとやって」 「頑張ります」 思いの他、コウさんのご機嫌は良かった。 「…経済効果はともかく、元来納経印だったものをスタンプラリー的な…」 とか言ってたのに、何が、何処がストライクゾーンだったのだろう? それに、子狐に迎えに。とはどういう意味?全くあの人の考えていることはわからない。 そんなことを思いながら日が過ぎ、 次の週末は、再び保志乃合神社を訪れ、近隣の神社をリサーチしながら、マップを作る。 市内だけでも、相当数の神社がある。誰彼にも信仰心は根付いているものなのだろう。 ただ、気づかないだけ…。 コウさんとはすれ違いの日が過ぎていた。 金曜日の夜。家の前を通ると、作業服姿の男が出て行く処だった。 「おぉ、シュウ、丁度いい。寄って」 コウさんが手招きをした。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加