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そして、イレギュラー発行の10月号は「古よりの月」と題してコウさんの随筆が一面を飾り、お月見スポット。観月会。大規模に行われた防災訓練の様子。秋のイベント情報などで紙面は埋まった。
あの満月の夜の写真はボツだった。
空の色が違う。という理由。
中秋の名月当日は晴れやかな空に美しい満月。
空の色など、さして気にも留めなければ、ひと月前と今日。
同じ夜空に浮かぶ同じ満月に見える。
けれど、それは全く別の空。
少し藍色が深く、光の輪郭が際立つ透明感。
その色をコウさんは知っていた。
二人で旧家の観月会を訪れた。
琴や二胡の演奏を聞き、歌会でのご指名に即興でコウさんが詠んだ歌は
「行く君の 袖を掴みし 指先に
届く残り香 遥か白道」
短冊にさらさらと筆を走らせ、スワハラにて、と言って俺に微笑んだ。
コウさんの声が、耳の奥で誰かの声と重なる。
この人も、本当は実体のない、別の空間に存在しているのではなかろか。
掴まえていないと消えてしまうような気がした。
いつかの蝶のように、
花のように、
香りのように…。
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