2人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
それから暫くして、運ばれて来た子狐は、見違えるほどに美しくなっていた。
白く滑らかな肌に、頬の傷も消え、前脚を綺麗に揃えて座っていた。咥えた玉は透き通って輝いている。まるで以前からその姿だったように見えた。
そして、俺は帯付の札束を初めて見た。
コウさんは柔らかな布に子狐を包むと
「参りましょうか」
と言った。
俺にではなく、子狐に。
「え?今から?」
「ん、一日千秋、一刻も早く連れて行きたい。丁度いい時間じゃない?」
陽が傾き始めている。
秋の日は鶴瓶落とし。
何が丁度いい時間?
俺は、なんとなく無口になっていた。
「何?何か言いたいことある?」
「…別に…ないですけど…」
「けど?」
「…初めて見ました。帯付の札束」
「なんだ。そんなこと」
「金持ちはやることが違うなぁって」
「馬鹿か。水晶が高かったの」
コウさんはポケットからひびの入った玉を見せた。
最初のコメントを投稿しよう!