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それから、引きこもっているらしい彼の姿を見ることはなかったが、また同じ季節が巡って来る頃には、玄関脇の奥にあった物置が拡張され、フリーペーパーマガジンの発行所が出来上がっていた。
通りがかりに、客を見送るコウさんを見かける。会釈をして通り過ぎようとした俺を呼び止めた。
「シュウ君、一寸寄って行かない?」
「え?あ、あの…」
そんな風に声を掛けられたことはないし、そもそも俺を知っているのも怪しい。
「お願いがあるんだよね」
そう言って手を合わせた。
おずおずと後に続き、見せられたのは『パンドラ』と書かれたタブロイド判の新聞。創刊号とあった。
「今届いた記念すべき第1号。これからポスティングしたり、色々な所に置いて貰うんだけど、大学の友達とか少し配って貰えないかな?」
「…構いませんけど…」
「ああ、勿論、ただでとは言わないから」
「いえ…配るだけなら…」
「そう?それは助かる」
「あの…パンドラって、あのパンドラですか?」
「うん」
「…なんか…何?」
「一粒の光?神の啓示っていうか?」
「神の…?これ、ヤバイやつじゃないですよね?ん、カルト的な…とか」
「ああ、違う違う。地域密着情報誌。安心して」
「…なら、いいですけど…」
一粒の光…と言った時の顔が、あの、蝶を追い掛けていた時の瞳を思い出させた。
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