花の下

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そうして、就活の合間に時々顔を出すようになり、神経質で堅物で。とか勝手なイメージはかなり外れていたことを知る。 そして、あの日の彼とは別人のようだと思う反面、時折、パソコンを背にして、ぼぉっと遠くを見つめている姿は、考え事をしているというより、見えない何かに目を凝らし、捕まえられない何かに手を伸ばしているようにも見えた。 俺は、あの桜の樹の下で、届かない蝶に手を伸ばすコウさんを写した一枚を見せたことはなかった。 元気を取り戻した彼に、何か、今更な気がして、見せそびれていたのだが、空の水色、桜の花の白、葉の緑、黒い揚羽蝶。色のコントラストが好きで、それが、瞳に写し込まれているのが結構気に入っていた。 時の流れの一瞬を切り取る。 そんな一瞬をいつも探している気がする。
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