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穏やかな日差しに舞う桜を見つめながら、ぼんやり、そんなことを思い出していた。
それから『野守の池』というお花見スポットに立ち寄る。
周囲1.2キロほど、かつて川の流れていた所に出来た河跡湖で、枝垂れ桜が池を取り囲むように咲いていた。
濃い桜色。
思わず歓声をあげたくなる。
寒緋桜が20本ほど並ぶ中に、ひときわ幹の太い桜が見える。
俺は池の周囲を見渡したあとで、ファインダーを通して、ゆっくり花に目をやった。
今まさに、満開か、或いはその時が過ぎつつあるのか、長く伸びた枝先が風に揺れる度に花は舞う。
次々と池に身を投げるかのような、落花の瞬間。
肉眼とレンズ越しの目は微妙に違って見える。
再びカメラを覗くと、いつの間にか、大きな桜の下に若い僧侶が座って居た。
経を唱えているのか、僅かに唇が動いている。
桜の樹の下で死にたいと言ったのは誰だったかしら。
俺は、その一本だけ花の色が違う巨木の桜と、僧侶を見つめてシャッターを切った。
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