探偵とスキャンダル ~4~

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探偵とスキャンダル ~4~

 着いたのは古い二階建てのアパートだった。年季の入った外壁には緑川さんからの手紙にあったのと同じ『五が丘ハイツ』と書かれていた。  俺と探偵は疑いつつも手紙の通り、大家さんのところに行き鍵を貰うと、二〇一号室に向かった。二階の角部屋である。仕事で使っていただけだったのか、表札はなかった。  探偵が鍵を挿し、ドアノブに手をかけてひねってみる。重そうな鉄の扉だったが、油は差されているようで、すんなりと開いた。  俺たちは部屋に入った。六畳ほどのワンルームである。家具はテレビやテーブルなど必要最小限しか置かれておらず、布団は部屋の端に二組綺麗に畳まれてあった。また、台所やバスルーム、トイレは付いているが、調理器具やタオルなどの小物はなかった。 「一応、水道や電気は通っているようね」  探偵は台所の蛇口をひねったり、壁のスイッチをいじったりして確認した。そのときの彼女はもう完全に混乱が収まり、通常通りに戻ったように見えた。 「君は入ったことなかったんだな」 「ええ。部屋を借りてたってこと自体、知らなかった」  探偵は部屋の中をゆっくり見回っている。 「見たところ、作業部屋として使っていたみたいね。置いてある布団は事務所にあったものだもの。所長が持ってきたんだわ」  探偵はしゃがんで畳んである布団をぺらりとめくった。 「あ、ちょっと待った」  探偵はそう言って立ち上がった。 「わたし、明日から何を着ようかしら。事務所に取りには行けないし」 「買うしかないだろ。もし手持ちないなら立て替えるぞ」 「それは助かるわね」  そう言うと、探偵はご機嫌に俺の方に来て、そのまま追い抜かし、玄関に戻っていくと、くるりとこちらを振り向いた。 「さて、根津さん。所長を探しに行くわよ。ついでに服も買うから、荷物持ちお願いね」  そして、探偵はそのまま靴を履き、ドアの外に出て行った。  彼女のいつも通りのわがままな感じに俺はほっとしたが、初めて見る表情だった気もした。
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