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探偵とスキャンダル ~7~
続いて向かったのはパティスリーかわらという洋菓子屋だった。緑川さんはここのシュークリームが大好きで、定期的に訪れている店だ。
店に入ると、店員の角田さんにこれまでと同じように事情を説明した。
しかし、感触は良くなく、彼は頭を掻いた。
「悪いけど、心当たりないっすね。それよりもお嬢はメシ食えてますか? しばらく事務所はお休みされると噂に聞いたので」
角田さんは心配そうに訊いてきた。結構顔はいかついけど、彼の人柄は良い。
「ご心配おかけしています。とりあえず大丈夫です」
探偵は頭を下げつつ答えた。
「ちなみに、フリーライターは来ませんでしたか?」
探偵は上着のポケットからさっき真以奈ちゃんからもらった蓮見の名刺を出した。
角田さんは目を細めてじっとそれを見ると、はっと顔を上げた。
「店に来たっす」
「本当ですか! お話しされましたか?」
「いやあ、そこまでは。姉さんの近況についてしつこく聞いてくるんで、やばい記者だと思って追い返しちまいました」
姉さんというのは緑川さんのことらしい。しかし、蓮見という記者も大した度胸のあるやつだ。こんないかつい人相手にしつこく取材を試みるなんて。怪しいやつでなきゃ、刑事に向いているぞ。
「近況ですか?」
探偵は角田さんに問う。
「緑川さん絡みで怪しい話はないかって。まあ、うちはただの贔屓にしてもらってるだけだって何も答えませんでしたけど」
「そうですか……」
探偵はむっと口を結んだ。
蓮見は緑川さんの近況、しかも怪しい話を聞いてどうするつもりだったのだろう。あの記事には現在のことは書いていなかったはずだ。
「ちなみに、緑川さんの不倫疑惑については何かご存じですか? わたしも全く聞いたことのない話で」
探偵はすがるように訊いた。
しかし、角田さんは首を横に振り、何も知らないっすと答えた。
そのとき、すみません! とお客さんから声が掛かって、角田さんはショーケースの奥に行ってしまった。
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