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それは息子に夢中になっている美しい母親を妬んで、幼い悦に、まさか自分の息子に、嫉妬しているのではないだろうかなどと、さすがに幼い悦でも勘ぐりたくなるほどであった。  悦の父親は小太りで醜く、何よりも不思議なのはあの若くて美しい母親が、どうしてこの醜い男と結婚したのか、幼い悦には到底理解できなかった。この美しい母親に見合う、素敵な男と結婚していれば、自分の容姿だって、もっとマシなものになったに違いないと、悦は確信して、悔やんでみたりした。  しかしそうなれば、生まれてきたのは自分ではないかもしれないと気づき、悦はまた暗いため息を吐いた。  そういうわけで幼い悦は女の子になど興味がなかった。  美しいだけで生きる価値のある母親と違って、せめてこの世で生き延びる理由が欲しいと、小さな頃から妙に達観した悦は思っていたのだ。
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