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3連休を思い切り堪能した翌日、忙しいランチタイムを乗り越え、客席を片付けていると、
「今だよ、行ってこいって!」
「いや...いいよ」
「あーもう!声かけてみなきゃ分かんねーだろ!」
賑やかに会話をしている20代くらいの男の子達がいた。
彼らの会話を気に留めることなく、直子は食器を重ねていった。
すると、
「あ、あの!」
「?」
声をかけられて振り返ると、そこには少し緊張している様子の青年がいた。
その青年はたまに食事をしに来ている常連客のうちの一人だった。
「追加のご注文でしょうか?」
直子は不思議に思いながらも、声をかけた。
「い、いえ...えっと」
しどろもどろな青年。その少し後ろには友達と見える男の子達が興味深々でこちらを見ていた。
何かの罰ゲームで声をかけているのか?
そんなことを考えながらも、青年の言葉を待った。
「綺麗だと思ってたんです...良かったら一緒にご飯行きませんか?」
予想もしていなかった誘いに、直子は驚きを隠せなかった。
街中でナンパをされたことはあったが、それも20代前半までだ。20代後半になると、声をかけられることもなくなり、女としての魅力が無くなってしまったのかと不安さえ感じていた。
それなのに、今目の前にいる青年は、一緒に食事をして欲しいと声をかけてくれている。
そして...
【行きなさい】
どう答えていいか分からなかった時、神社で聞いたあの美しい声が心の中で響き、こだました。
まるで「この人があなたを愛してくれる人です」とでも言われているような感覚。
目に見えない何かに背中を押されているような、この誘いを断ったら必ず後悔するような...
そんな考えが直子の心に舞い降りた。このチャンスを逃すまいと、口は動いた。
「今日は6時に仕事が終わるので、夜ご飯でも行きますか?」
「あ、はい!」
青年は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
それと同時に何故か、青年が赤ちゃんを抱っこして、こちらを見て微笑んでいる...そんなビジョンも見えた。
見えたビジョンに驚きながら、青年は「また!」と言って席に戻り、直子も重ねた食器を持って仕事に戻っていった。
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