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「拓人は口から生まれてきたのかな?」
「生命の神秘からだよ」
紅葉を見上げながら、俺らはゆっくり歩く。
「口から生まれても生命の神秘に変わりないよ?」
「口から生まれてたら、俺は今頃そこそこ有名なはずだろ?」
本当に中身のない会話が俺らは大好きだ。
「そこそこなんだね」
「口から生まれてもただの人だからな」
その時間が楽しい。問いも答えも思いつき。美晴との時間が沈黙にならないように一見無駄な時間を過ごす。そうであっても大切な時間だ。
近所のこの公園はそこそこの広さがある。散歩だけの人。犬の散歩の人。子供の遊ぶ人。ベンチでおしゃべりをする人。キャッチボールをする人。色んな人が集まる。その知らない人たちを眺めるのも悪くない。
のんびりと俺と美晴は手を繋いだまま公園を散策。落ち葉を踏みしめる足音もサクサクと心地よい音で気持ちいい。それもまた悪くない。
その悪くない時間をあるものが途切れさせる。
「ゴミはゴミ箱だろ……」
目の前に落ちていた煙草の箱。ゴミのポイ捨ては気分を萎えさせる。俺はその煙草の箱を拾い上げる。ゴミ箱へと移動させるために。
「なんか古いデザインの箱だね……」
美晴がおもむろにそう言った。
「煙草の箱なんて、みんな同じでしょ?」
「同じじゃないよ。煙草のパッケージって結構まめにデザイン変わってるんだよ。お父さんが煙草吸ってるから見てたし、デザイン好きだから、コンビニで煙草の棚見たりしてるから」
「へぇ」
気のない返事をしてしまったが、拾った煙草は封が開いている。何気に中身を覗いてみる。封は開けられているのに、中身は一切手がついていなかった。
箱を裏返してみる。そこにはフィルムの中に紙切れが挟んである。そこには幼い子が書いたであろう文字。
「お父さん、禁煙がんばって……か」
つい声に出して読む。
「これ、ゴミなのかな?」
美晴が不思議そうに呟いた。
「どうしてそう思うの?」
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