3人が本棚に入れています
本棚に追加
煙草落ちてました
秋口の風は心地よい。訳もなく外出をしたくなる。本日、晴天なり。そんな理由をつけて俺は彼女の美晴を公園に呼び出した。
「本当に拓人には呆れるわ……」
開口一番、ベンチに座っていた俺に冷たい視線を浴びせてくる。
「いいじゃん。公園デート。悪くないだろ?」
美晴の手にはバスケット。いつも突然に呼び出す俺に呆れながらもお弁当だったり、サンドイッチだったりをきっちり作ってくる。その分、俺の待ちぼうけの時間は長くなるが、そんなに悪くはない。
「いつもいつも突然なのよ!あ、コーヒー飲む?今日はサンドイッチだから温かいコーヒー淹れてきたよ」
美晴はバスケットから水筒を取り出し、さらに紙コップを取り出す。コポコポと水筒から紙コップへとコーヒーは注がられる。
俺は紙コップを受け取り、口をつける。温かな温度が心地よい。ふと見上げてみる。そこには見事な紅葉を携えた樹木。うん悪くない。
「そう言えば教習所はまだ時間かかる?」
思い出したように美晴は俺の顔を覗く。大学で出会った俺らは一緒に教習所に通い始め、美晴は早々と免許を取得しているが、俺は時間がかかっている。何事もゆっくりな俺に美晴はやきもきとしている。
「もう少しかな?年内にはとれるから」
「……のんびりしすぎ」
「だってこんな秋晴れは美晴と一緒にいたいだろ?」
一瞬笑って瞬間呆れる美晴。
「うまいこと言ってるけど、私は拓人が運転する車でドライブデートしたいんだけどなぁ?」
皮肉か。嫌味か。そう思うが口にはしない。
「来年には叶うよ。今日は紅葉満載の公園デートだよ。ちょっと歩こう」
俺はコーヒーをぐいと飲み、座っていたベンチから立ち上がり、美晴に手を伸ばす。
美晴は困ったように笑って、俺の手をとって立ち上がる。
最初のコメントを投稿しよう!