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『齧る』という言葉がドキッと心臓を打つ。想像して肩がビクッと震えた。
なんでそんなこというかな。顔が真っ赤になってる自覚がある。
これまでの彼女にお願いしても気持ち悪がってしてくれなかった。
「齧っていい? 歯で」
歯で? 齧るなら歯だろ? なんでわざわざ強調するんだよ。どきどきしてるのが見透かされてる気がする。でも心は頭に反して強調された『歯』っていう甘い言葉に無意識に呼吸が荒くなる。
ちょっと待って、冷静になれ俺の心。相手は男だぞ?
にっと笑った歯に歯茎が見える。キュッと引き締まった歯茎にも目が釘付けになる。あの引き締まった歯茎から突き出した白い歯。
歯がちょっとずつ近づいてきて、目元を手でふさがれた。
暗い。
そう思った瞬間、下唇が尖ったもので甘く挟まれる感触。
さっきの白い歯が脳裏に浮かんで、思わず舌が伸びて感じたエナメル質の硬い感触。さっきの歯。口から漏れる息が熱くなってる。
ん……ふゥ……
急に唇の圧迫が薄れて遠ざかる感触。まって。急いで歯を追いかけた俺の舌はなんとか歯と歯の間に滑り込み、持ち上げるように上歯の裏側のざらざらした部分を擦って引き止める。
縛られた手がもどかしい。もっと。
頭の後ろを軽く支えられて、より深く入ってきた舌が俺の上歯の裏を舐める。下の歯の裏を味わっている俺の舌の腹と侵入してきた舌の腹が接触して、互いの口を大きく開かせる。歯と歯が接触してカチカチなる感触が骨を伝わってじんわり頭の芯が痺れる。あの歯と触れ合ってる。
……はァッ……んぅ
歯をカチカチさせて感触を味わっていると、急に目元の手が取り払われて、俺をじっと見る目と目があった。
あれ? 男?
気を取られているうちに唇が離れていく。
あれ? 俺、男とキスしてた? ひどく上がった息。心臓の揺れがまだ血管を駆け巡っている。
「ふぅ、歯フェチの人のキスって情熱的でびっくりした」
カナデさんは唾液を拭いながら首をかしげる。
白い歯が眩しい。
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