歯ヲ齧ル

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あ、俺負けた? そう思った瞬間カナデさんの舌は俺の舌を絡め取って、歯を俺の歯に当ててきた。顎を掴まれてホールドされて、顔を動かせない。 ちゅっ……カチッ……んっぁあ……んん……ちゅっ 唾液が絡まる音の間に歯が当たる音がまざる。 ずるい、もう無理。この人百戦錬磨だろ。 キスだけなら……あれ? これって先っぽだけなら理論じゃないの? 踏み止まれ俺。 動きを止めた俺の舌に合わせてか、カチリと当たる歯が急に動きを止める。 あれ? 「動かないから好きに舐めていいよ」 接した唇と唇の間、カナデさんの歯の間を通って直接俺の口の中で音が発生する。ヤバい、意識とろける。好きに舐めていい? そんなことこれまでの彼女にだっていわれたことない。 グッ、耐えろ俺。動かない手を強く握ってなんとか耐える。 でも俺の決意は俺の口内をくすぐる次の一言で崩れ去った。 「舐めてほしいな?」 気がついたら、俺はカナデさんの上の歯を丹念に舐めていた。尖った犬歯を超えて平たい臼歯。たまらない。もういいや。キスだけ。キスだけだから。せっかくだから奥歯も舐めたい。喉の奥に舌を差し込むと、俺の顎を支える手がわずかに震え、喉の奥から微かな呻めきが聞こえる。でも顎の手は離れてない。もうちょっと大丈夫? 俺の頭のほんのちょっとだけ残った冷静な部分が俺を煽ぐ。この人ならいいんじゃね? 好きにしていいっていってたし。 口を一回離してカナデさんの下唇を舌で押し下げ、下の前歯を軽く噛む。くゥッ至福。小さく噛んだ歯をチロチロ舐める。あぁ、これがあの歯……。ヤバい、すごく興奮する。皮膚がざわざわする。歯を噛まれたって気持ちよくもなんともないから、誰もさせてくれなかった。
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