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大家さんと熊
えー、『犬も歩けば棒に当たる』という表現がありますが、元々の意味は『何かをしようとすると予期せぬ不幸が待ってたりするから気を付けよう』的なものだそうで。犬が歩いている最中に人に棒で撲られたりする可能性、に言及した表現らしいんですけれど、今の時代、犬を撲りでもしたら色々倍返しをされる可能性がある訳でして……。
「おい、熊! 熊公はいるかい?」
「いませんよ~」
「……一人暮らしなのに本人以外が返事をする可能性があるとでも?」
「いやいや昨今の事象を鑑みるに、AIを用いた機器が日月進歩をしている訳ですし。場合によっては留守番する人をレンタルという可能性も。更には友達や同棲相手という事も──」
「あるとでも?」
「……」
「友達も金も無いのに?」
「……」
「彼女いない歴イコール年齢なのに? 魔法使いや妖精も夢じゃないと言ってたのに?」
「ごめんなさい。居留守をしようとしていました」
「うん、分かればいい、分かれば」
「───で、大家さん。何か用ですか? 家賃は一部払いましたよ?」
「……偉そうにするなら満額払っとくれ。いや、今日はその事じゃなくてだな」
「ああ、あれですね!」
「?」
「アパートのごみ集積場をカラスが荒らしていたのを見かけたので、部屋の窓からビニール袋に水を入れた物を投げ込んで追っ払っていたら、思いの外水浸しになっちまった件ですかい?」
「……あれはお前の仕業だったのか。業者の人がゴミ回収する日はいつも集積場がびっちょり濡れているので不思議がってたぞ? まあ取り敢えず今日の件はそれではない」
「なら、あれかな~?」
「あれとは何だ、あれとは?」
「いえね。大家さんところの庭に柿の木があるじゃないですか」
「あるな」
「今年は甘柿らしく、色々な鳥が結構啄んでたので、追っ払おうとして枝を揺らしたりしてたら思いの外、実が下に落ちちゃいまして……」
「………」
「スミマセン。二度としませんから、追い出すのは勘弁してください」
「……まあ、悪意があった訳でもないし。洒落にならない迷惑行為ではないから、今回は不問としてやる」
「ありがとうございまーす!」
「語尾を伸ばすな語尾を。今日、私が来たのはな。お前さんがこれを落としていったんじゃないかと思って届けに来たんだ」
「それはあっしの小銭入れ!」
「やっぱりお前さんのか。駐輪場に落ちていたんで交番に届けようと思っていたんだが、何か見覚えがあったんで念のためお前さんに訊きにきたんだ」
「ありがとうございます。これで今月生きていけます!」
「大袈裟だな。……ところで残りの家賃の支払いは大丈夫なんだろうな?」
「出来れば大目に見ていただけると……」
「それは無理だが、なるべく遅れないように払っとくれよ?」
「頑張ります!」
「多めに払ってくれても良いんだけど?」
「それはお気持ちだけ受け取っておきます」
お後が宜しいようで──
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