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――そうか、私の勘違いね! あなたは「行き止まりのドア」をご存知ないのでしょう。居場所を探して彷徨った果てに、偶然ここへ辿り着いたのね。それで、こんなところに私が立っているものだから、まだ先があると期待しているんだわ。知らない場所を探索するのは、楽しいでしょうからね。でもごめんなさい、私は「行き止まり」なのですよ。
疲労を露わに、子どもはふらつきながら、ドアの前に立った。魂まで吐ききってしまいそうな、真っ白い息の軌跡を描いて、がたつく取っ手を掴む。ドアは焦った。
――本当に何もないのよ!
木枠との接点が軋み、ドアはぱっと引き開けられた。風を受け、勢いづいた雪が、痩せた体へ襲い掛かる。幼子の希望を打ち落とす銃弾のように。
……しかし客人は瞬きもせず、ドアの向こうに臨んでいた。月の光を、窪んだ目の表に貼り付けて。
ドアは呆然と、子どもの横顔を確かめる。眉や目や唇の角度は、凍ったみたいに変化がない。これが私の恐れた、失望の表情だろうか? たぶん違う。この子はまだ望みを残しているのだ。何だろう。「行き止まりのドア」から一体、何が見えるというのだろう。もしかしたら自分が気づいていないだけで、何か人のためになるものを、私は持っていたのかもしれない……。
考え込むドアの前で、子どもはなんと、巻いていたマントを脱いだ。
ドアは驚き――ついに風雪に圧倒されたかのように、震えあがった。理解したのだ。この子は雪に撃たれるまでもなく、すでに絶望という鉛玉に貫かれていた。客船事故で親兄弟を亡くし、飢え、困窮し、耐えかねて家族の後を追おうと決めた――想像にすぎないが、見当違いとも思えない。単純なことだった。この子にとって、ここは行き止まりではなかったのだ。
今何を言うべきか、分からない。
ドアが小屋を出る人に、行ってらっしゃいを言わなかったことはない。夏の事故より後は、同じ顔を二度とは見かけなかったが、お戻りをお待ちしております、も忘れずに口にした。本心だった。一度去った人が、自ら望んで戻ってきてくれたら、それこそ人を喜ばせるというドアの目標が達成された証明になるからだ。
けれど小さな客人には、どちらの言葉もかけられなかった。この高さから海へ転落すれば、戻って来られるはずがない。それを知っていて送り出す無慈悲なドアになるよりは、どんなにからかわれても「行き止まりのドア」である方がいい。
ドアが人のために思い詰めているなんて、誰が考え及ぶだろう。
子どもはひと時ドアと繋がっていた手を離した。ぼろぼろのシャツを風が弄ぶ。ざらりと床が鳴る。右足が虚空へと踏み出した――。
――行かないで!
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