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最後に、私の一番好きな物語をお聞かせいたしましょう。
一間しかない小屋なので、裏口に立つ「行き止まりのドア」にも、向かいの玄関に差し込む粉っぽい月光を遮る影が見えた。
夏以来、玄関はこれ以上なく開ききって――有体に言えば、肝心な扉部分を奪い取られて――あらゆるものが我が物顔で通行するのを黙認していた。人、鳥、虫。雨に風に土埃、そして今は雪。
しかし今宵の小さな、それどころか単独で訪れた中ではおそらく最年少記録の客人は、中を窺いつつもすぐに入ってはこなかった。
ここは麓の町からでも、気軽に来られる場所ではない。ドアは人がそう語っていたのを思い出した。山路は石や木の根で馬車を跳ね上げ玩具にするし、薄情にも途中で土砂に埋もれている。あとは徒歩移動。天然の岩の階段を上るのは特に骨が折れる――ご立派な革靴や華奢な足首を気にしながら、大の大人がぶつくさ言うのを何度も聞いた。
彼らは決まって付け加えたものだ。「気まぐれを起こすんじゃなかったな。『行き止まりのドア』なんか、苦労して見に来る価値はない」と。
当のドアは、裏口から眺められる範囲を超えて、玄関の向こうを知るすべを持たない。けれども子どもの足には酷な旅路だったろうと想像はついた。とても冬のただ中とは思えない装いをしていては、なおさらだ。
持って生まれた羽毛だけで冬を越す鳥たちだって、この時期はまん丸く着膨れているのに、幼い客人はぺしゃんこだった。毛織のマントを巻きつけているが、どうにも硬そうで、布が体に沿っていない。平らに伸ばして床に敷く方がいいような、衣類なのかすら怪しい代物だ。その下には穴だらけのワンピース、と思ったが違った。大人ものの、一歩歩けば裾がはためく薄いシャツだ。ブーツは一応子ども用のようだが、それでもサイズが合わないと見え、紐で足に括りつけてやっと履いている様子だった。枝のようなその足で、よくぞ悪路に耐えたものだ。
一刻も早く休みたいだろうに、なお入室を躊躇う子どもの慎み深さは、秩序が踏みにじられるのを見慣れたドアの心を、いたく惹きつけた。
ドアは裏手から押し寄せる冷気に抗い、体に一層力を込めた。木枠との間にいつしか生じた隙間から、意地の悪い風が鋭い口笛を吹き立て侵入してくる。無力感をあおる音だ。それでも努めずにはいられなかった。窓板は外れ、壁には亀裂。屋根を除けば、風雪の横暴に立ち向かう手勢は揃って満身創痍で、ドア自身はまだ軽傷の部類だった。
――風が海側から吹いているのは幸運だわ。玄関側と違って、こちらにはまだ私がいるんだもの。歯の根も合わないあの子を、少しは守ってあげられる。
ドアは、そう自分を勇気づけた。珍しい謙虚な客人をもてなしたい思いはあれど、この小屋のドアがもう自分一枚きりというだけで、世界中のドアにかかる責任を全部預かったみたいに心細かったのだ。
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