00,前兆

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00,前兆

破壊行為が好きだった。 "破壊"は皆平等に幼少期に必ず経験する快感だろう。 人は成長と共に理性が芽吹く。 やってはいけない、という暗黙のルールで"破壊"を自重する。 本心では壊す快感を解っている筈なのに、それでも無意識に我慢する。 国法に抗わなくとも理不尽に耐える。 何故なら、それが"大人"だからだ。 カレンダーも薄くなった日、冷たい風が窓を叩く。 僕は齢30になった。 世論は僕を"大人"と比喩するだろう。 年齢なんて所詮ただの数字でしかないと思っていたが、意味も無い割に枷になって縛ってくる。 ふと、同年齢の人物を調べてみた。 会社経営者、売れてる芸人、有名アイドル。 格が違うとはこの事か。 そのレベルを再度見て、やっと僕は辿り着いた。人生の一つの答え、ゴールに。 「いっそ死のう」 この時の僕にとって死という選択肢は最も的を射ていた。 今後に期待も希望も無い。 生きている意味なんて無いと数年も前から思っていた。 本当は毒殺されたら嬉しいが、人生そう上手くいかないものだ。 高所からの飛び降りが手っ取り早いか、睡眠薬を飲んでから首を吊ろうか。 考えている内に時は経ち、結局怠惰なまま生きている。 その後何度自殺を図ってもすぐに見つかり死ねなかった。 人を殺そうと首を絞めても邪魔をされ未遂で終わった。 殺されないし、死ねない。 それを繰り返し、最終的に破壊衝動の標的は自分になった。 手首を何度も切って、道路にも飛び込んだ。 でもまだ死んでいない。 生を実感する度に絶望する。 極限で死ねないまま、僕は今日も生きてしまっている。
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