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6 理の家族
翌朝のこと。
昨日は、ずっと一緒にいて満足していたのか、やりたい事があると言う理に私たちはアパートに送ってもらい、理はそれからマンションに戻ったので、会うのは会社に行ってからだった。
会社で会う理は、右頰は薄くはなったが、まだもみじ。
左には湿布が貼られていて、痛々しく、とても外回りや会議に出せない顔をしている。
「課長!どうしたんですか?」
うちの部の社員8人と私以外のパートさん3人はもちろん、よその女子社員まで心配そうにしている。
「その…昨日、彼女の家に結婚の挨拶に行って、親御さんに殴られた。」
「えっ⁈課長、結婚するんですか。殴られるって課長、何したんですか?」
市川さんの声にあたりが騒つく。
確かに大企業の社員で、グループ企業のどれかのトップに立つ存在。見た目も能力も申し分ない。
普通、殴られるはずがないわね。
その日の昼には、社内に話が広まっていた。
私がトイレに行った時、総務のお姉さんたちが私に声をかけてきた。
「小林さん。宝田課長の話、聞いたんだけど。」
「もう総務まで広まったんですか?今日は、顔が痛々しいですよ。」
私がそう言うとさらに話を続けて来た。
「えー⁈ 彼女いたんだ。でも宝田課長が殴られるって、どんな父親を持つお嬢様なのかしら。」
残念ながらお嬢様じゃないし、母なんですけど…
さすがに言えないので、心の中で呟いた。
「でも、いいわよね。宝田課長と結婚なんて、羨ましいわ。」
私は、笑って誤魔化すくらいしか出来なかった。
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