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叔父夫婦に拾ってもらった分際で、働きもせずに部屋でだらだらと一日を過ごす――ニートに成り下がった忌一を、茜は心から軽蔑していた。叔父は何故、この穀潰しを今すぐ見捨てないのかと、呆れもしている。
しかし、叔母が亡くなってすぐに忌一は二年間、“陰陽師”とかいう祓い屋の修行をしたと聞き及んでいた。修行を終えてからずっとニートなので、修行の成果があったのかどうかは怪しいものだが、そっち方面に詳しいのならと、今回嫌々ながら彼に頼ることにしたのだった。
小汚い忌一にシャワーを浴びさせ、髭も剃らせ、タンスからは清潔そうな白いYシャツとGパン、クローゼットに一着だけ掛かっていた黒いジャケットを引っ張り出して着替えさせると、とりあえず乗ってきた赤い軽自動車に押し込み、車を発進させる。
小ざっぱりした忌一は、最初の印象ほど悪くなかった。普段も最低限このくらいまで身だしなみを整えれば、普通の社会人に見えなくもないのに、それすらしないことに憤りを覚えたが、そんな様子にも気づかずに忌一は、言われるがまま大人しく助手席でぼうっと車窓を眺めていた。
「もしかして、今から行こうとしてるのってあっちの方角?」
「え……何でわかるの?」
そう答えると、忌一は心底嫌そうな顔で「うわぁ……」と漏らす。
(何が見えてるの? 本当怖いんだけど)
運転をしながらも、今回の依頼について経緯を話し始めた。社会人二年目となる茜が勤める小咲不動産、そこが抱えるとある問題物件を何とかして欲しいという依頼だ。
その物件を更地にしようとすると、解体現場で必ず原因不明の事故が起こり、いつまで経っても更地に出来ないという。昨日も現場で解体作業を行おうとしたら、急に重機がバランスを崩し、それに巻き込まれた従業員が入院するという事故が起きたばかりだ。
既にこの物件の解体から手を引く業者は三件目となり、悪い噂が広まっていて、なかなか次の業者が見つからないでいる。建物付きで手放そうにも、これだけ噂が広まってしまうと買い手がつかないこともあり、何としても更地にしたいところ……ということで、陰陽師の修行をしたという忌一に、物件に何か悪いものが憑いているようならそれを祓って欲しい、ということだった。
「俺にそんな能力無いんだけどな……」
「でも視えることは視えるんでしょ?」
「まぁな……」
とりあえず視るだけでもと、二人は現場へと向かうのだった。
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