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この光景には既視感を覚えた。幼い頃に同じようなことを言われた記憶があるのだ。
幼い頃、忌一と一緒に祖父母の家へ泊まった時、夜中に一人でトイレへ行けなくて、彼に付いてきてもらったことがあった。その時に交換条件で何かをねだられた気がするが、それは何だったのか……具体的には思い出せない。
(でもまぁ、上手くかわせば大丈夫だよね)
「いいよ。約束してあげる」
「よっしゃ! 絶対違えるなよ?」
そう言うと忌一は、事が終わるまで車の中で大人しく待っているよう言いつけた。そして呼びに来るまで、そこから一歩も出てはいけない、とも。
釈然としないながらもこの物件が無事更地に出来るならと、その妙な言いつけに従い車へと戻るのだった。
*
敷地から茜の姿が見えなくなると、忌一のジャケットの内ポケットから、昔話に出てくるような姿の老人が這い出して、忌一の肩口に腰を下ろして「安請け合いではないのか?」と、話しかける。
「じーさん、聞いてたのか。でも勝算はある。こいつを俺のものに出来れば、アレを開放しても何とかなりそうだ」
「危ない橋じゃのう。こやつが館に封じているものとアレを戦わせるとは。一歩間違えば、命を落とすかもしれんぞ?」
「どの道、俺に未来なんか無いさ。アレが俺を宿主にした時点でね」
諦観を含んだ表情で忌一が言うと、老人の顔は悲しいものになる。
「わしの力では二度とアレを封じることは出来ぬが……じゃからと言うて、こやつを第二の式神にするとはのう。こやつでも恐らく、アレを祓うことは出来ぬぞ? 封じるので精一杯じゃろう。それに失敗すれば……」
「命を懸けるには十分な相手さ。こんな強い式神、桜爺同様、早々出会えるもんじゃないからな。茜には感謝しないと」
「己を大切にせよといつも言うておるに……。ところで、あの娘には報酬に何をねだるつもりじゃ?」
「う~ん……子孫繁栄?」
それを聞いた桜爺は、さっきまで同情していた表情とは打って変わって、軽蔑の眼で忌一を見た。
「忌一はほんに……糞野郎じゃのぅ」
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