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 持ってきていた筈の荷物をそのままに。何かに、いや、明確な使命感だけ携えて手ぶらで襖を開ける。部屋の外は既に沢山の同じ格好をした無数の老若男女が、裸足でゾロゾロと同じ方向に歩んでいた。  いかにも高級ホテルといった、ヨーロピアンな装飾の豪華絢爛な狭い廊下を、通勤ラッシュさながらひしめき合うように。不揃いながらも何処かに向かって歩いている白い集団の姿。  ──もうミンナ、ジュンビがデキてるよ・・・。チューセーシンはんぱねぇなー。  感心しつつ、一度寝ぼけ眼を擦る。中東を思わせる独特な色彩と柄の赤いカーペットが敷かれたただっ広い廊下。おぼつかない足取りで進む、その五人に遅れをとってはならないと気を取り直し、一足遅れた女性を放置したまま、廊下へと続く扉を後ろ手に閉めた。  L字型の、いかにも安ホテルにありがちなレバーは嫌に冷たく。ドアノブが指先を離れた直後、ガチャリ、と、背後からは聞きなれた開閉音と共に、複雑なオートロックがかかる音を微かに聞いた。  ──あれ・・・なんか、あれ? まだアタマがネてるかも・・・?  度重なる違和感も、心地よい浮遊感も、目まぐるしく変わる光景も、抱いた使命の方が大事なあまり無頓着だった。  まだ未成年だろう数人の人間達を追って、コンクリートの地面を小走りで進む。ほこりっぽいのか、はたまた砂でも混じっているのか。  ──ああ。フルびたリョカンってのは、こういうアジがあっていいねぇー。エラんでセイカイだったわ。  年期を足裏で感じながら、その経年劣化や風化をしみじみと味わい、時折、コンクリート打ちっぱなしの壁に手をついて、唐突な目眩や立ちくらみに耐えて歩を進めた。  不思議と、自分だけ他より足取りが軽くあっという間に先程から先行していた老人達を抜き去っている。  ──カミのケまとめるのワスれてた。やば、ヘアゴムワスれた・・・。キョウは色々忘れてばっかりだわ。いかんなぁ。  ベリーショートをかきあげながら、呑気にそんなことを思いつつ、薄暗い道を元気な競歩でお行儀よく進む。少し眠気が覚めてきたのか、気分も起床時よりは良く、視界は当初よりも鮮明だった。  行くべき部屋の扉。手術室を思わせる観音開きのケミカルな雰囲気のパステルカラーのドアは、まだ少し遠いもののハッキリと視界に映る。
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